CP/マルエーマルコ、ビスタが登場するも折悪しく寝こけるエース。エースに対する思いは三者三様です。
[6回]
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「サッチ、そこ空いてるか?」
エースが寝てからすぐ、マルコとビスタが食堂に入ってきた。突然話し相手がいなくなってしまったサッチは、二人が来てくれて大歓迎だった。
「エースはどこだ?」
ビスタが尋ねた。
「たった今寝たところさ」
サッチは背後から来るビスタに、向かいに座るエースが見えるよう席をずらした。
「眠り姫は相変わらずだな」
ビスタは自慢の口髭を触りながら言った。
「どこが姫なもんか。生意気で聞かないクソガキだよい」マルコは即座に否定した。
「いつの時代も、姫と名のつくものは生意気で我儘と相場が決まってるんだぜ」サッチがエースの食器を脇に除けながら言った。
マルコはサッチの隣に陣取ると、コックにパンを持って来させた。
「珍しい、サラダがあるじゃないか」
ビスタはパンと一緒に運ばれて来たサラダを見て言った。
「今日は予定外の寄港があったからよい、料理長が野菜と果物も調達してきたんだ」
長い海上生活で不足しがちなミネラル分を上手に摂取させるのはコック達の仕事だ。マルコとビスタは寄港後すぐにしか味わえない新鮮な野菜を頬張った。
「エースは野菜をちゃんと食べてたか?」マルコが言った。
「さあなぁ、コックが持ってきたから食ってたんじゃねぇのか?」
シーフードボイルをつつきながらサッチが答えた。
「エースは陸にいても肉と穀物にしか興味がないからな。明日にでもちゃんと食べるよう伝えておいてくれよい」
「自分で伝えたらいいだろう。その方がエースが喜ぶ」
ビスタがマルコにそう言った。
「俺はいいよい。心配したり甘やかしたりするのはお前らに任せた」
マルコは言った。
「だからエースが余計に誤解をするんじゃねぇのか?お前が怒ってばかりいるから」
サッチがフォークをマルコに向けながら答えた。
「こいつは俺が優しくしたって聞かねぇよい。普段お前らが甘やかす分まで俺が諌めないといけねぇ。エースは騒ぎばかり起こすから褒める暇がねぇんだよい」マルコはパンを千切って頬張った。
ビスタは身が詰まったムール貝を上品に開きながら言った。
「エースは、何と言うかなぁ。俺から言わせればマルコに怒られたがっているように見えるがな」
「そんなバカがどこにいるんだよい」
マルコは笑いながら答えた。
サッチはというと食事を一通り平らげていて、デザートのオレンジに手を付けていた。
「もしかしたらここにいるのがそうか?」オレンジを剥きながらサッチが茶化した。
ビスタはナプキンで口を拭きながらそのまま話し続けた。
「エースは負けん気が強いし、賢いだろう。何度もマルコに怒られて、本当に嫌だったら意地でも頑張りそうなもんだがな」
ビスタの言う事にも一理あった。
エースは確かに負けん気が強いので、白ひげ海賊団に保護された直後も、仲間のためとはいえ幾度も白ひげに挑んでいたし、自分がこうだと思ったことは意地でもやろうとする精神の持ち主だ。
ビスタはエースが怒られたいから同じことを繰り返すような言い方をしたが、そのような人間はそうそういない。マルコからすれば、エースの価値観の中でマルコに怒られることはまるで大したことがないと受け流されているように感じ、より一層複雑な気分になった。
ビスタはサッチに勧められたオレンジを断ると、知ったような顔でマルコに言った。
「マルコ、お前もほどほどにするんだな。お互い癖になる前に」
「どういうことだよい」
ビスタの言いたいことは、何となくマルコにも想像はついた。まさかと思いはしたが、すぐにその考えは打ち消した。
「じゃあ俺はいくよい。オヤジに呼ばれてる」
マルコは食器を纏めると席をたった。
「ビスタはどうするんだよい」
「俺はこの間手に入れた剣の事で、イゾウに呼ばれている」
ビスタもマルコに続いて席を立った。
「おい、みんな行くのかよ。」
サッチはせっかく捕まえた話し相手が去って行くのが名残惜しくて、縋るような声で言った。
「起きないならなら放っておけよい」
「冷てぇ奴だな、エースがまた拗ねるだろ?」
なんだかんだでサッチは優しい。サッチはいつも一番貧乏くじを引いてるのは自分だという自負があった。
マルコとビスタが食事を終えてそれぞれ行ってしまうと、サッチはエースが起きるのを待ちながら、ニュース・クーを読むことにした。
しばらくすると、エースが眠りから覚めておもむろに顔を上げ、食事を噛み始める。
「今日は起きるのが早いな」
「ごみゃん、寝てた」
もぐもぐと口を動かしながら、エースはサッチに謝った。スープ皿を取ろうとして、寝る前は無かった二人分の食器に目が行く。食べ方が綺麗で、きちんとまとめられた食器。マルコとビスタに違いなかった。
「あの二人が来てたのか?」
寝ぼけ眼でエースが尋ねる。
「ああ、お前が寝てる間にな。起こした方が良かったか?」
「・・・ん、別にいい」
さっきの今でマルコに顔を合わせるのは気まずい。しかも、昼間怒られたことと同じことを繰り返すとは情けなかったが、こればっかりは昔からの癖でエースにもどうしようもなかった。
マルコは間抜けにも食堂で寝こけるエースを見てどれだけ呆れただろうと思うと、珍しく食事が喉を通らない感じを覚えた。
サッチは読んでいたニュース・クーを閉じて、何やら物憂げに食事を再開したエースを観察しながら、しみじみとした顔で言った。
「お前はつくづく幸せな奴だよなあ」
「なんでだよ」
「みんなに気にかけてもらえてさ」
エースは手に持ったオレンジの皮を乱暴に剥くと、それがマルコであるかのように毒づいた。
「でもマルコはそれがダメだって言ってんだろ?」
エースはオレンジを頬張りながら、続けて言った。
「もういっそのこと、マルコが怒る気を無くすくらいの騒ぎを起こしてやろうかと思うぜ」
サッチは先ほどビスタが言っていたこともあながち間違いではないかもしれないと思い始めていた。
- Continue ------------------------------------------------------
怒ることでしかエースに触れられないマルコ。怒られることでしか気を引けないエース。二人とも、そうしたい根幹には気付いていない感じです。
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